鑑賞の記録(2021-)

2021年以降に鑑賞した美術館の企画展、コレクション展等を記録しています。
随時更新。

【2023】
・1/14 大竹伸朗展@東京国立近代美術館
・1/21 桃源郷通行許可証@埼玉県立近代美術館
・1/25 諏訪敦 眼窩裏の火事@府中市美術館
・1/28 都築響一コレクション 大道芸術館
・2/25 加藤泉 寄生するプラモデル@ワタリウム美術館
・3/7 エゴン・シーレ展@東京都美術館 企画展示室
・3/11 佐伯祐三 自画像としての風景@東京ステーションギャラリー
・3/11 極楽鳥@インターメディアテク
・3/12 お雛さま 岩崎小彌太邸へようこそ@静嘉堂文庫美術館
・3/19 芸術家たちの南仏@DIC川村記念美術館
・3/30 クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ東京都現代美術館
・4/16 MOTコレクション 被膜虚実/Breathing めぐる呼吸@東京都現代美術館
・4/22 重要文化財の秘密@東京国立近代美術館
・4/23 特別展 東福寺東京国立博物館 平成館
・4/30 鴨居玲―1983年2月3日、私@高梁市成羽美術館
・5/2 生誕100年 回顧展 石本正@京都市京セラ美術館
・5/2 コレクションルーム 春期 特集:魅惑の昭和モダン@京都市京セラ美術館
・5/2 Re:スタートライン 1963-1970/2023@京都国立近代美術館
・5/3 光陰礼讃@泉屋博古館
・5/13 土門拳の古寺巡礼@東京都写真美術館
・6/18 マティス展@東京都美術館  企画展示室
・6/24 救いのみほとけ お地蔵さまの美術@根津美術館
・7/17 木島櫻谷 山水夢中@泉屋博古館東京
・7/28 デイヴィッド・ホックニー展@東京都現代美術館
・8/5 ガウディとサグラダ・ファミリア展@東京国立近代美術館
・8/11 蔡國強 宇宙遊-〈原初火球〉から始まる@国立新美術館
・8/19 甲斐荘楠音の全貌@東京ステーションギャラリー
・8/20 ABSTRACTION 抽象絵画の覚醒と展開@アーティゾン美術館
・9/16 野又穫 Continuum 想像の語彙@東京オペラシティ アートギャラリー
・9/24 楽しい隠遁生活@泉屋博古館東京
・10/1 超絶技巧、未来へ!@三井記念美術館
・10/9 COMICO ART MUSEUM
・10/13 永遠の都ローマ展@東京都美術館 企画展示室
・10/22 ジャム・セッション 石橋財団コレクション×山口晃 ここへきて やむに止まれぬ サンサシオン@アーティゾン美術館
・11/4 キュビスム展@国立西洋美術館
・11/12 杉本博司 本歌取り 東下り@渋谷区立松濤美術館
・11/23 横尾忠則 寒山百得展@東京国立博物館 表慶館
・12/2 日本画の棲み家―「床の間芸術」を考える@泉屋博古館東京

【2022】
・1/8 ミニマル/コンセプチュアル@DIC川村記念美術館
・1/8 戸谷成雄 森―湖 再生と記憶@市原湖畔美術館
・1/16 柚木沙弥郎 life-LIFE展@PLAY! MUSEUM
・2/13 クリスチャン・マークレー@東京都現代美術館
・2/13 Viva Video! 久保田成子展@東京都現代美術館
・3/5 ミケル・バルセロ展@東京オペラシティ アートギャラリー
・3/11 ぎこちない会話への対応策―第三波フェミニズムの視点で@金沢21世紀美術館
・3/11 フェミニズムズ/FEMINISMS@金沢21世紀美術館
・3/11 コレクション展2 BLUE@金沢21世紀美術館
・3/12 第45回伝統九谷焼工芸展@石川県立美術館
・3/19 日本画のゆくえ@栃木県立美術館
・4/13 ミロ展@Bunkamura ザ・ミュージアム
・4/13 SHIBUYAで仏教美術奈良国立博物館コレクションより@渋谷区立松濤美術館
・4/24&5/11 Chim↑Pom展 ハッピースプリング@森美術館
・5/3 Arts Towada十周年記念「インター+プレイ」展 第3期@十和田市現代美術館
・5/3 コレクション展@青森県立美術館
・5/7 東京の猫たち@目黒区美術館
・5/14 ダミアン・ハースト 桜@国立新美術館(連続講座第2回「点描から垣間見える死―スーラとダミアン・ハースト」)
・5/20 メトロポリタン美術館展@国立新美術館
・5/22 井上長三郎・寺田政明・古沢岩美の時代@板橋区立美術館
・5/28 三鷹天命反転住宅
・6/12 生誕100年 特撮美術監督 井上泰幸展@東京都現代美術館
・6/12 吉阪隆正展 ひげから地球へ、パノラみる@東京都現代美術館
・6/12 Tokyo Contemporary Art Award 2020-2022 受賞記念展@東京都現代美術館
・6/12 MOTコレクション 光みつる庭/途切れないささやき@東京都現代美術館
・6/19 篠田桃紅展@東京オペラシティ アートギャラリー
・7/23 カラーフィールド 色の海を泳ぐ@DIC川村記念美術館
・7/31 自然と人のダイアローグ@国立西洋美術館
・7/31 調和に向かって ル・コルビュジエ芸術の第二次マシン・エイジ@国立西洋美術館
・8/7 ルートヴィヒ美術館展@国立新美術館
・8/12 国際芸術祭あいち2022 STILL ALIVE@愛知芸術文化センター
・8/14 ゲルハルト・リヒター展@東京国立近代美術館
・8/18 とある美術館の夏休み@千葉市美術館
・8/21 キース・ヴァン・ドンゲン展@パナソニック留美術館
・8/28 李禹煥国立新美術館
・9/15 横尾さんのパレット@横尾忠則現代美術館
・9/22 日本美術をひも解く@東京藝術大学大学美術館
・9/25 MOTアニュアル2022 私の正しさは誰かの悲しみあるいは憎しみ@東京都現代美術館
・9/25 MOTコレクション コレクションを巻き戻す 2nd@東京都現代美術館
・10/1 装いの力 異性装の日本史@渋谷区立松濤美術館
・10/9 川内倫子 M/E@東京オペラシティアートギャラリー
・11/11 ピカソとその時代 ベルリン国立ベルクグリューン美術館展@国立西洋美術館
・11/12 響きあう名宝 曜変・琳派のかがやき@静嘉堂文庫美術館
・11/14 学年誌100年と玉井力三 描かれた昭和の子ども@千代田区立日比谷図書文化館
・11/20 ヴァロットン 黒と白@三菱一号館美術館
・11/26 マン・レイと女性たち@神奈川県立近代美術館 葉山
・12/11 鉄道と美術の150 年@東京ステーションギャラリー
・12/24 交歓するモダン 機能と装飾のポリフォニー東京都庭園美術館

【2021】
・1/10 生命の庭@東京都庭園美術館
・1/14 1894Visions@三菱一号館美術館
・1/16 ベルナール・ビュフェ回顧展@Bunkamura ザ・ミュージアム
・1/29 舟越桂 私の中にある泉@渋谷区立松濤美術館
・2/6 解き放たれたコレクション展@WHAT
・2/20 眠り展@東京国立近代美術館
・2/27 トライアローグ@横浜美術館
・3/11 カオスモス6 沈黙の春に@佐倉市立美術館
・3/14 多層空間の中のもうひとつのミュージアムICC
・3/14 千葉正也個展@東京オペラシティ アートギャラリー
・3/25 VOCA展2021@上野の森美術館
・4/3 Welcome, Stranger, to this Place@東京藝術大学大学美術館 陳列館
・4/10 マーク・マンダースの不在@東京都現代美術館
・4/10 Tokyo Contemporary Art Award 2019-2021 受賞記念展@東京都現代美術館
・4/10 MOTコレクション コレクションを巻き戻す@東京都現代美術館
・5/8 3.11とアーティスト 10年目の想像@水戸芸術館(《あかい線に分けられたクラス》藤井光監督×子ども出演者の対話)
・5/25 大・タイガー立石展@千葉市美術館
・6/20 ライアン・ガンダーが選ぶ収蔵品展@東京オペラシティ アートギャラリー
・7/21 アナザーエナジー展@森美術館
・7/23 Walls&Bridges 壁は橋になる@東京都美術館 ギャラリーA・B・C
・8/13 新・晴れた日 篠山紀信東京都写真美術館
・8/18 TURNフェス2021@東京都美術館 第1・第2公募展示室
・8/22 虹をかける 原美術館/原六郎コレクション@原美術館ARC
・8/22 群馬青年ビエンナーレ2021@群馬県立近代美術館
・8/24 STEPS AHEAD@アーティゾン美術館
・8/24 MOMATコレクション 特別編:ニッポンの名作130年@東京国立近代美術館
・9/14 GENKYO 横尾忠則東京都現代美術館
・9/15 MOTコレクション Jouenals 日々、記す@東京都現代美術館
・9/18 加藤翼 縄張りと島@東京オペラシティ アートギャラリー
・10/2 館蔵品展 目力展@板橋区立美術館
・10/10 MOTアニュアル2021 海、リビングルーム、頭蓋骨@東京都現代美術館
・10/16 ピピロッティ・リスト水戸芸術館
・10/31 美男におわす@埼玉県立近代美術館
・11/7 川端龍子VS.高橋龍太郎コレクション@大田区立龍子記念美術館
・11/20 小早川秋聲@東京ステーションギャラリー
・12/5 ジャム・セッション 石橋財団コレクション×森村泰昌 M式「海の幸」@アーティゾン美術館(12/4 土曜講座 森村泰昌×木下直之対談)
・12/5 石橋財団コレクション選「印象派―画家たちの友情物語」@アーティゾン美術館
・12/19 福田美蘭展@千葉市美術館


恋について


恋人ができました。

いや!!!!!おまえ!!!!!ものの3か月前には!!!!!「始まった関係はいつか必ず終わるのだから、いっそ何も始まらなければいい」とか書いてたじゃん!!!!!「これからも当たり前みたいな顔して、なんとも思っていない相手とセックスすると思う」とか書いてたじゃん!!!!!それなのにしれっとクリスマス前に恋人なんかつくっちゃってさ!!!!!なんなんだよ!!!!!結局おまえもそうやって!!!!!

やっぱり、3か月も経てば人の考えなんて変わってしまうわな。(遠い目)

実際のところ、彼と知り合ってからもしばらくは、特定の相手と交際するつもりはありませんでした。だって、始まったら終わるから。どんな関係性も、始まってしまったらもう、終わりに向かって進んでいくしかないから。最初は楽しくても、相手のことが愛おしくてたまらなくても、時間の経過は容赦なくお互いの化けの皮を剥がしていくし、慣れは飽きに移ろって、ともすれば好意は嫌悪に変貌していってしまうから。

彼とは、そうなりたくありませんでした。
でも、セフレみたいになってしまうのはもっと嫌でした。

わたしは、セフレという言葉に対して懐疑的です。「なんとも思っていない相手とセックスする」のは、双方の同意さえあれば問題ないことだろうし、わたしもそういうことをしてきています。でも、少なくとも、相手のことを「友達」だと思ったことはないです。セフレってセックスフレンドの略ですけど、セックスするためだけに会うなんて、そんなのもう、どう考えても友達ではないですよね。自分の欲求を満たすための、都合のいい「道具」でしかない。だからわたしは、前回の投稿で意図的にセフレという言葉を使いませんでした。なんだろう、あえて言い換えるなら「セックスするための知り合い」とかになるのだろうか。

世の中にはセフレとセックス以外のことをする人たちもいるようですが、「付き合っているわけではない」という前提で恋人同士のようなことをするのはすごく無責任だと思うし、そんなことしてる時点でどっちかは相手のこと好きになっちゃってる場合がほとんどだと思うので、対等な関係を築けているとは言い難いはずです。

で、そういう都合のいい関係って、相手に対する敬意や、相手のことを大切にしたい気持ちがあったら、絶対に選ばないと思うのです。

わたしは、少し年下で、なおかつほとんど恋愛経験がないと打ち明けてきた彼に対して、その選択肢はとれませんでした。そんなことできなかった。

だって、聴いている音楽が同じで、二人で美術館に行けて、お酒よりも珈琲の方が好きで、でもチェーン店ではなくてちゃんとした珈琲を出してくれる喫茶店がよくて、そういうお店で話しているとあっという間に3時間くらい経ってしまう相手なんて、簡単には見つからないじゃないですか。

特に音楽の趣味、これが致命的でした。推しが一緒だったのです。クリスマスの時期になると、およそ40年前にリリースされた名曲が必ずオリコンTOP100に入る某大御所ミュージシャンなんですけど……。彼の曲をわたしより聴きこんでいる同世代の人に会うのは初めてだったし、お互いのポータブルオーディオプレーヤーの画面見ながら1970年代にリリースされたアルバムの話ができちゃうなんて、そんなの運命感じない方が無理でした。たとえ交際には発展しなくても、気の合う友達としてずっと一緒にいられたらと、願ってしまうような相手でした。

さて、数あるマッチングアプリの中でもっともヤリモクが多いとされているアプリを利用していたために、わたしは基本的に、出会う相手の目的は十中八九セックスだ、と肝に銘じていました。言わずもがな、わたしの目的も十中八九セックスでした。適当に楽しい時間を過ごして、肉体的に気持ちよくなれればそれでよかった。真剣な恋愛や結婚のためにあんなアプリ使う人、まずいないでしょう。

でもわたしは、あまり遊んでいるようには見られないタイプだし、自分で言うのもなんですが、そこそこいい大学を出てそこそこいい企業に勤めているので、マッチして会った相手に不思議がられることが多々ありました。アプリをやっている目的を訊かれたとき、わたしは決まって、親の離別を目の当たりにして結婚願望がなくなったこと、今は特定の相手と付き合うつもりはないことを話していました。嘘ではありません。恋とか愛とかクソくらえっていう気分でした。恋とか愛とかで、どれだけしんどい思いをしてきたか。

そして彼は、わたしの話を真に受けた。真に受けて、2回目に会ったとき気の迷い(っていうかわたしが誘惑に負けたというのが正しい気がする)でホテルでエッチなことしちゃったあとも、「これはもうお互い絶対に好きじゃん」という状況になっても、「付き合ってください」とは言ってこなかった。

だから、再びそういう流れになってしまったときに、喫茶店を出て駅まで歩く道すがら、わたしから「そういうことをするならちゃんと付き合いたい」と伝えました。曖昧な関係に持ちこむきっかけをつくってしまったのは、どちらかといえばわたしの方だったからです。

彼から、「僕もそのうち言わなきゃいけないと思っていました、趣味が合うとわかった時点で好きでした」という旨の答えが返ってきたときは心底嬉しかったし、彼がわたしに気を遣って積極的なアプローチを控えていたことを知ると、そこに彼なりの優しさや誠意を感じました。

(付き合う前にそういうことをしておきながら誠意もクソもあるものかというツッコミがとんできそうですが、まあ当人同士にしかわからない機微もあります。彼のセックスは、ヤリモクのそれとは少しちがうものでした。)

彼と親密になっていく過程でリスロマンティック的な感覚に陥らなかったのは、告白より先に体の関係があったことと、わたしの方から好意を伝えたことが大きく影響していると思います。

順番が逆なのは百も承知で、わたしはやっぱり、セックスを経ずに告白されることに途方もない抵抗があるようです。本当に嫌。裸を見たことも触れ合ったこともないのに好きとか言われるの、気持ち悪くて受け入れられない。(重大なバグ)

まあでも、仕方ない。
自分にとって違和感のないやり方で進めていくしかない。

かくしてわたしは、いつか必ず終わる関係を、自ら始めてしまったのであった。
人間とは業の深い生き物である。

どんなに恋愛に対してペシミスティックになっていても、もう当面誰とも付き合わないとか思っていても、好きになっちゃうときは好きになっちゃうね。理屈は通せない。もっと相手のことを知りたい、触れてみたい、会って話がしたいと思うのは、人間の根源的な欲求である気がしました。

自分のことを大切にしようとしてくれている人とセックスするのも恥ずかしながら随分ひさしぶりで、したあとに心理的な距離が縮まるなんてとてつもなく幸せなことに思えて、顔を寄せて他愛もない話をしているうちにカーテンの向こう側が段々明るくなっていくなんて、こんなに満ち足りた時間があるのかと目から鱗が落ちました。

なんとも思っていない相手とのセックスを今さら否定する気はないですし、あれはあれで理に適っているところもあります。でも、「この人とはもう二度と会わないだろう」と思いながらセックスするのと、「この人と明日は何をして過ごそう」と考えながらセックスするのとでは、なんというか、月並みな表現ではあるけれど、精神的な部分の満たされ具合が全然ちがいました。この人はセックスが終わったあとも離れていかないと確信できる安心感は、何にも代えがたかったです。

前回の予告通り、半年もしないうちにちがうこと言ってる結果となりました。そのときどきで変わっていく恋愛やセックスに対する考え方を文字にして残しておくの、結構面白いかもしれない。

また、折があれば書きます。


愛について


いろんな経験をしてようやくわかってきたのですが、どうやらわたしのなかで、恋愛とセックスは別物みたいです。

普通の人は、好きな人としかセックスしたいと思わないんだろうし、そもそも好きな人とじゃないと気持ちよくないっていうのが大前提にあるのだと思います。初対面の相手とセックスするなんて信じられないとか、セックスだけの関係なんて不毛だからやめておけとか、常識的で一般的な意見だと思います。わたしも、セックスを知るまえは当然のようにそう思っていたし、そうあるべきだと考えていました。

でも、いざセックスしてみたら、相手に恋愛感情を抱いているかどうかはあまり関係ないように思えてきて、今はむしろ、なんとも思っていない相手とセックスする方が気楽で好きです。恋愛とセックスは、完全にわかれている方がしっくりくる感覚があります。恋愛の先にあるセックスこそが正しいもの、という一般論を否定することはしませんが、今のわたしはその正しさを求めていないかもしれません。

だって、相手のこと好きじゃなくても、いいところ擦ってくれれば物理的に気持ちいいじゃないですか。相手のこと好きかどうかなんて関係なくて、あんなものマッサージと同じで、自分が気持ちいいと思えるツボをさすったり揉んだり舐めたり突いたりしてくれさえすれば、「ッはァァァ~~」ってなるじゃないですか。

ならないか。(笑)

いや、普通の人はそうならないんだろうなってことは、わかっています。わたしは一体、いつから普通じゃなくなっちゃったんだろう。今までずっと、とりわけ恋愛面においては、人より真面目に生きてきたはずなんだけどな。やっぱり処女は、然るべきタイミングで捨てておくべきだった気がするな。

初対面の相手とセックスできるなんて話を、友達から聞いたことはありません。
いい歳こいてマッチングアプリで遊んでる子も、身近に一人もいません。
周りと自分とのズレを、ものすごく感じる今日この頃です。

みんな妻になったり母になったりしているのに、わたしにはその願望すらない。
始まった関係はいつか必ず終わるのだから、いっそ何も始まらなければいい。
付き合うとか結婚するとか、今のわたしには荷が重くて面倒くさい。
「誓いますか?」って、永遠の愛なんか誓えるわけがない。
誓えるみんなと誓えないわたしのちがいって、なんなんだろう。

そういえば先日、ツイッターで「蛙化現象」というワードがトレンドになっていました。わたしはまさに、自分の内側で起こるその現象に戸惑ったり悩んだりしてきたタイプです。好意を抱いた人に好意を向けられると、ゲロゲロに蛙化してしまう。理想が高いだの自分に自信を持てだの人はいろいろ言いますが、こればっかりは大目に見てほしい。「この人のこと素敵だと思ってたのに、よりによってわたしなんかのこと好きになっちゃうなんて解釈ちがいも甚だしい……」って、なっちゃうんだってどうしても。

彼氏いない歴26年11ヵ月を貫いてしまったせいか、わたしには人に「性の対象」として見られることがとても怖かった時期がありました(2016年の記事にもそんなようなことを書いている)。好きとか付き合ってくださいとか言われても、え、じゃあわたしたちそのうちセックスするんですか? あなた、わたしなんかで興奮するんですか? っていう不安や恐怖が先行してしまう。あのぞわぞわする感じは、言葉ではなんとも表現しがたいものです。セックスの気持ちよさを知っても、これは克服できませんでした。好意を言動で示されると、未だに胃液がせり上がってくるような感じがします。多分その人とセックスするかどうかはあまり関係なくて、恋愛感情(のようなもの)をちらつかされると、もう無理になってしまう。どうして素直に喜べないんだろうって、自分で自分を嫌になったこともあります。恋愛に対する憧憬はあるのに、こんなの矛盾しているじゃないですか。

未知なるセックスに対する漠然とした恐怖と、女性として特に何かが秀でているわけでもないわたしの身体で相手が興奮するのか? という不安は、恋愛感情を抱いていない相手とセックスすることで乗り越えました。わたしがなんとも思っていない相手に触られて興奮するのと同じで、そういうことができる相手は、わたしの顔も身体も性格も、大して見ていない。だから勃つし、射精もする。多分わたしのこと、かろうじて知能があるTENGAくらいにしか捉えてないんじゃないかな。

可愛くないとか、乳がないとか、そういうことは実はあんまり関係ないとわかると、少し自分に自信が持てるようになりました。荒療治にもほどがあるって身近な人には怒られそうだけど、わたしは後悔していないし、これからも当たり前みたいな顔して、なんとも思っていない相手とセックスすると思う。一方で、恋愛感情を抱いた相手とそういうことをするのは、あまり望まないかもしれない。片想いの状態が一番心地いいんだもん、一生片想いしていたい。

あとは、恋愛感情を抱いた相手の性的興奮状態というのを、あまり見たくないのもあります。わたしはその人が持つ知性に惹かれて人を好きになることが多いので、理性より本能優位になった相手の姿を、敢えて見たいとは思わない。お互い様だけど、セックスしてるときって人生で一番ばかじゃん。人生で一番ばかな瞬間を、わざわざ二人で共有する意味ってあるのかなって思っちゃう。なんとも思っていない相手で事足りるなら、リスクを負ってまで好きな人としなくていっかって思っちゃう。

わたしみたいな考え方も、リスロマンティックに分類されるのでしょうか。微妙。このあたりの感覚は100人いたら100通りあると思っているので、言葉で定義することに確実性はさほどない気がします。リスロマンティックを自認することは、本来線のないところにわざと線を引くような行為で、おそらくそれは自分自身を正しく理解することにはつながらない。今までは自分の置かれた状況や経験の少なさからその傾向が強く出ていただけで、これから変わっていくのかもしれないし。

親の離別がどこまでわたしの恋愛観や結婚観に影響してるのかわからないけど、多分まだ、なんやかんやで消化しきれていない部分もあって、こういう感じなのかなと思ったりします。始まりって、終わりに向かって踏み出していくイメージが、どうしてもある。始まらなければ終わらなくてすむって、だめな考え方なのかな。快楽主義っていうか享楽主義っていうか。

「セックスだって関係性の始まりじゃん」というツッコミは甘んじて受けますが、あの極めて肉体的な気持ちよさが果たして恋愛感情という精神的なものに昇華されるのかというと、今はまだちょっと疑問です。

とはいえ、恋愛もセックスも相手あってこそのもので、一人でどうにかできるものではありません。きっと、これまでに出会った人と、これから出会う人次第。わたしは自分に正直に、違和感のない恋愛やセックスをしたいし、多分それが、自分で幸せを決めるということなんだと思います。


※タイトル「愛について」は、野村佐紀子さんの写真集のタイトルから取りました。今しか書けないことを書き残しておくことにも意味があると思い、ここ最近ツイッターでぽろぽろつぶやいては消していた断片を組み立て直した次第です。半年もしたらまたちがうこと言ってるかも。女心と秋の空。


鑑賞の記録(2010-2020)

2020年までに鑑賞した美術館の企画展、コレクション展等を記録しました。

【2020】
・1/4 加藤泉 - LIKE A ROLLING SNOWBALL@原美術館
・6/7 神田日勝 大地への筆触@東京ステーションギャラリー
・6/12 ドローイングの可能性@東京都現代美術館
・6/12 オラファー・エリアソン東京都現代美術館
・6/12 もつれるものたち@東京都現代美術館
・6/12 MOTコレクション いま―かつて 複数のパースペクティブ東京都現代美術館
・6/13 バンクシー展@アソビル
・6/20 音と造形のレゾナンス@川崎市岡本太郎美術館
・6/27 ジャム・セッション 石橋財団コレクション×鴻池朋子 ちゅうがえり@アーティゾン美術館
・6/27 Cosmo-Eggs 宇宙の卵@アーティゾン美術館
・6/27 石橋財団コレクション選@アーティゾン美術館
・7/4 森村泰昌 エゴオブスクラ東京2020原美術館
・12/23 上田薫@埼玉県立近代美術館

【2019】
・1/4 言語と美術―平出隆と美術家たち@DIC川村記念美術館
・1/5 吉村芳生 超絶技巧を超えて@東京ステーションギャラリー
・1/5 フィリップス・コレクション展@三菱一号館美術館
・1/8 ソフィ カル―限局性激痛@原美術館
・1/9 ムンク展@東京都美術館 企画展示室
・1/10 カタストロフと美術のちから展@森美術館
・1/13 辰野登恵子 オン・ペーパーズ@埼玉県立近代美術館トークイベント「辰野登恵子と絵画の現在」)
・1/14 イサム・ノグチと長谷川三郎―変わるものと変わらざるもの@横浜美術館
・1/14 コレクション展「リズム、反響、ノイズ」@横浜美術館
・1/19 小圃千浦@岡山県立美術館
・2/9 ニュー・ペインティングの時代@高知県立美術館
・2/13 イメージコレクター・杉浦非水展@東京国立近代美術館
・2/14 光悦と光琳琳派の美@畠山記念館
・2/16 イケムラレイコ 土と星 Our Planet@国立新美術館
・3/16 やなぎみわ展 機械神話@高松市美術館(3/9 やなぎみわトークショー
・3/22 志賀理江子 ヒューマン・スプリング@東京都写真美術館
・3/23 ル・コルビュジエ国立西洋美術館
・4/28 ウィーン・モダン展@国立新美術館
・4/29 百年の編み手たち@東京都現代美術館
・4/29 MOTコレクション第1期 ただいま/はじめまして@東京都現代美術館
・4/30 クリムト展@東京都美術館 企画展示室
・5/1 脇田和猪熊弦一郎@石川県立美術館
・5/5 福沢一郎展 このどうしようもない世界を笑いとばせ@東京国立近代美術館
・5/5 キスリング展@東京都庭園美術館
・5/25 ギホウのヒミツ@高松市美術館
・5/26 江戸の超グラフィック@香川県ミュージアム
・6/2 植物の力 拡大する日本画香川県東山魁夷せとうち美術館
・6/9 横浜美術館開館30周年記念 meet the collection@横浜美術館
・6/16 学芸員が選ぶ収蔵品ベストセレクション展@高松市塩江美術館
・8/11 ジュリアン・オピー@東京オペラシティ アートギャラリー
・8/14 メスキータ展@東京ステーションギャラリー
・8/25 宮永愛子展 漕法@高松市美術館
・8/31 大原美術館
・9/7 猪熊弦一郎展 私の好きなもの Part2@四国村ギャラリー
・9/23 大竹伸朗 ビル景 1978-2019@水戸芸術館
・10/13 高松コンテンポラリーアート・アニュアルvol.08 社会を解剖する@高松市美術館

【2018】
・1/13 開館5周年記念展 みずのきとわたし@みずのき美術館
・1/13 はじまりは、伊藤若冲細見美術館
・1/13 草間彌生 My Soul Forever@フォーエバー現代美術館
・2/1 荒木経惟 私、写真。@丸亀市猪熊弦一郎現代美術館
・2/28 高松市美術館コレクション+木村忠太とこぼれる光のなかで@高松市美術館
・5/1 ヌード展@横浜美術館
・5/2 五木田智央 PEEKABOO@東京オペラシティ アートギャラリー
・6/3 20世紀の総合芸術家イサム・ノグチ香川県ミュージアム
・6/16 荒井茂雄展 人生の詩@丸亀市猪熊弦一郎現代美術館
・7/1 モボ・モガが見たトーキョー@たばこと塩の博物館
・8/10 Story ―これまでそしてこれから―@高松市塩江美術館
・8/11&9/29 猪熊弦一郎展 風景、顔@丸亀市猪熊弦一郎現代美術館
・8/11 高松コンテンポラリーアート・アニュアルvol.07 つながりかえる夏@高松市美術館
・8/14 1940'sフジタ・トリビュート@東京藝術大学大学美術館 陳列館
・8/16 藤田嗣治天井画特別展示@迎賓館赤坂離宮
・8/16 深堀隆介展@平塚市美術館
・8/18 藤田嗣治展@東京都美術館 企画展示室
・8/18 ショーメ展@三菱一号館美術館
・9/15 丸木位里・俊《原爆の図》をよむ@広島市現代美術館
・9/15 コレクション展2018-Ⅱ@広島市現代美術館
・10/14 豊島横尾館、針工場、豊島八百万ラボなど
・10/29 草間彌生 永遠の南瓜展@フォーエバー現代美術館
・11/1 描かれた「わらい」と「こわい」展@細見美術館
・11/8 地中美術館
・11/9 起点としての80年代@高松市美術館
・11/14 激動の時代を生きた鬼才浮世絵師芳年高知県立美術館
・11/27 大原美術館
・11/29 サヴィニャック パリにかけたポスターの魔法@兵庫県立美術館
・12/1 横尾忠則 在庫一掃大放出展@横尾忠則現代美術館
・12/8 犬島精練所美術館
・12/11 没後90年佐伯祐三/没後30年小磯良平展@山王美術館
・12/13 興福寺中金堂落慶記念・世界遺産登録20周年記念 入江泰吉古都奈良の文化財興福寺~」展@入江泰吉記念奈良市写真美術館
・12/13 野村恵子×古賀絵里子「Life Live Love」展@入江泰吉記念奈良市写真美術館
・12/14 君は「菫色のモナムール、其の他」を見たか?@モリムラ@ミュージアム
・12/14 ニュー・ウェイブ 現代美術の80年代@国立国際美術館
・12/14 コレクション2:80年代の時代精神から@国立国際美術館
・12/18 丸亀美術館

【2017】
・1/9 TOPコレクション 東京・TOKYO@東京都写真美術館
・1/9 アピチャッポン・ウィーラセタクン 亡霊たち@東京都写真美術館
・1/11 デザインの解剖展@21_21 DESIGN SIGHT
・1/13 世界遺産ラスコー展@国立科学博物館
・2/8 MoMA
・2/9 The Metropolitan Museum of Art
・2/11 Harvard Art Museums
・2/13 Guggenheim Museum, NEUE GALERIE
・2/24 Gallerie dell'Accademia di Venezia
・2/25 Gallerie degli Uffizi, Gallerie dell'Accademia di Firenze
・2/27 Musei Vaticani
・3/某日 シャセリオー展@国立西洋美術館
・3/某日 MOA美術館
・3/27 Memento MoriCHANEL NEXUS HALL
・3/28 パロディ、二重の声@東京ステーションギャラリー
・4/16 今様@渋谷区立松濤美術館木村了子、山本太郎 アーティストトーク
・4/29 今様@渋谷区立松濤美術館木村了子、棚田康司、満田晴穂 アーティストトーク
・5/1 伊藤若冲展[後期]@相国寺承天閣美術館
・5/2 杉浦非水@細見美術館
・5/12 ミュシャ展@国立新美術館
・5/13 横尾忠則 HUNGA JUNGLE展@町田市立国際版画美術館
・8/5 足立美術館
・8/16 荒木経惟 センチメンタルな旅 1971-2017-@東京都写真美術館
・8/17 荒木経惟 写狂老人A@東京オペラシティ アートギャラリー
・8/17 藝「大」コレクション@東京藝術大学大学美術館
・8/19 藤島武二展@練馬区立美術館
・9/17 フェリーチェ・ベアトの写真@DIC川村記念美術館
・9/23 横尾忠則 HUNGA JUNGLE展@横尾忠則現代美術館
・10/8 石原七生×村上佳苗 潮綯い合す処@今治市大三島美術館

【2016】
・1/22 YOKO ONO : FROM MY WINDOW@東京都現代美術館
・1/28 東京アートミーティング Ⅵ "TOKYO" 見えない都市を見せる@東京都現代美術館
・1/28 平成27年度第3期MOTコレクション@東京都現代美術館
・3/29 村上隆スーパーフラット・コレクション ―蕭白魯山人からキーファーまで―@横浜美術館
・4/14 生誕150年 黒田清輝 日本近代絵画の巨匠@東京国立博物館 平成館
・5/26 カラヴァッジョ展@国立西洋美術館
・7/6 ルノワール展@国立新美術館
・7/6 ほほえみの御仏―二つの半跏思惟像―@東京国立博物館 本館1階特別5室
・7/22 12 Rooms 12 Artists Works from the UBS Art Collection@東京ステーションギャラリー
・8/13 ポンピドゥー・センター傑作展@東京都美術館 企画展示室
・8/13 木々との対話@東京都美術館 ギャラリーA・B・C
・8/22 豊島美術館
・8/23 地中美術館
・9/8 篠山紀信「快楽の館」@原美術館
・9/12 鈴木其一 江戸琳派の旗手@サントリー美術館
・10/13 総合文化展@東京国立博物館
・10/19 世界報道写真展2016@東京都写真美術館
・10/19 杉本博司 ロスト・ヒューマン@東京都写真美術館
・10/20 驚きの明治工藝@東京藝術大学大学美術館
・10/21 大仙厓展@出光美術館
・10/30 オランダのモダン・デザイン リートフェルト/ブルーナ/ADO@東京オペラシティ アートギャラリー
・11/2 革新の工芸@東京国立近代美術館 工芸館
・11/4 トーマス・ルフ展@東京国立近代美術館
・11/24 円山応挙根津美術館
・11/25 クリスチャン・ボルタンスキー アニミタス_さざめく亡霊たち@東京都庭園美術館
・11/25 アール・デコの花弁@東京都庭園美術館
・11/29 ゴッホゴーギャン展@東京都美術館
・12/7 ダリ展@国立新美術館
・12/13 日本の伝統芸能展@三井記念美術館

【2015】
・2/19 THE 琳派@畠山記念館
・3/3 ブリヂストン美術館コレクション展 ベスト・オブ・ザ・ベスト@ブリヂストン美術館
・3/6 スサノヲの到来@DIC川村記念美術館
・3/10 ガブリエル・オロスコ展@東京都現代美術館
・3/10 開館20周年記念MOTコレクション特別企画第3弾 コレクション・ビカミング@東京都現代美術館
・3/15 都美セレクション 新鋭美術家2015@東京都美術館 ギャラリーA・B・C(瀬島匠、山田彩加 アーティストトーク
・3/18 横尾忠則 大涅槃展@横尾忠則現代美術館
・3/30 VOCA展上野の森美術館
・4/15 岡本太郎の「生命体」@岡本太郎記念館
・4/15 キュンチョメ「もう一度太陽の下でうまれたい」@岡本太郎記念館
・4/22 若冲と蕪村@サントリー美術館
・4/25 蜷川実花:Self-image@原美術館
・4/30 燕子花と紅白梅@根津美術館
・5/15 マグリット展@国立新美術館
・5/19 private, private わたしをひらくコレクション@埼玉県立近代美術館
・6/2 ボッティチェリルネサンスBunkamura ザ・ミュージアム
・6/15 大地図展@東洋文庫ミュージアム
・6/16 江戸のダンディズム@根津美術館
・6/16 高橋コレクション展 ミラー・ニューロン東京オペラシティ アートギャラリー
・6/23 他人の時間@東京都現代美術館
・6/23 山口小夜子 未来を着る人@東京都現代美術館
・8/29 KEITH HARING MULTIPLEXISM@中村キース・ヘリング美術館
・8/30 清春芸術村(清春白樺美術館、光の美術館、ジョルジュ・ルオー礼拝堂)
・9/1 古今東西100人展@ワタリウム美術館
・9/8 NO MUSEUM, NO LIFE? これからの美術館事典@東京国立近代美術館
・9/8 MOMATコレクション 特集:誰がためにたたかう?@東京国立近代美術館
・9/11 秋の優品展 宗教と美術@五島美術館
・10/6 春画展(前期)@永青文庫
・11/20 ニキ・ド・サンファル展@国立新美術館(9/19 関連シンポジウム「戦後美術史における女性作家の活動」)
・11/23 逆境の絵師 久隅守景@サントリー美術館
・11/24 鴻池朋子展「根源的暴力」@神奈川県民ホールギャラリー
・11/24 横浜美術館コレクション展2015年度第3期@横浜美術館
・11/30 大竹伸朗 時憶/フィードバック@慶應義塾大学 アート・センター(12/4 大竹伸朗矢野優トーク「最近の活動について」)
・12/1 MOMATコレクション 特集:藤田嗣治、全所蔵作品展示。@東京国立近代美術館
・12/19 そこにある、時間 ドイツ銀行コレクションの現代写真@原美術館
・12/22 春画展(後期)@永青文庫
・12/24 村上隆の五百羅漢図展@森美術館

【2014】
・2/5 アンディ・ウォーホル展@森美術館(3/23 横尾忠則登壇シンポジウム「ウォーホルと日本」)
・3/3 ラファエル前派展@森アーツセンターギャラリー
・3/6 驚くべきリアル@東京都現代美術館
・3/6 MOTコレクション 第1部 私たちの90年 1923-2013/第2部 クロニクル1966-|拡張する眼@東京都現代美術館
・3/11 ザ・ビューティフル@三菱一号館美術館
・4/11 観音の里の祈りと暮らし展@東京藝術大学大学美術館
・4/11 藝大コレクション展@東京藝術大学大学美術館
・5/2 超絶技巧!明治工芸の粋@三井記念美術館
・5/3 第一回ホキ美術館大賞展@ホキ美術館
・5/16 特別展 燕子花図と藤花図@根津美術館
・5/23 イメージの力@国立新美術館
・5/30 バルテュス展@東京都美術館 企画展示室
・6/6 明大博物館クロニクル@明治大学博物館
・6/20 世界報道写真展東京都写真美術館
・6/25 ミッション〔宇宙×芸術〕@東京都現代美術館
・6/25 開館20周年記念MOTコレクション特別企画第1弾 クロニクル1995-@東京都現代美術館
・7/27 デュフィ展@Bunkamura ザ・ミュージアム
・8/7 ドリス・サルセド展@広島市現代美術館
・8/7 コレクション展2014-Ⅱ どちらでもない/どちらでもある@広島市現代美術館
・8/15 ボストン美術館 華麗なるジャポニスム展@世田谷美術館
・8/22 現代美術のハードコアはじつは世界の宝である展@東京国立近代美術館
・8/27 ヴァロットン展@三菱一号館美術館
・8/27「バルテュス 最後の写真ー密室の対話」展@三菱一号館美術館 歴史資料室
・9/17 メトロポリタン美術館 古代エジプト展 女王と女神@東京都美術館 企画展示室
・9/17&10/3「楽園としての芸術」展@東京都美術館 ギャラリーA・B・C
・9/24 イメージメーカー展@21_21 DESIGN SIGHT
・11/11 ジョルジョ・デ・キリコパナソニック汐留ミュージアム(11/14 山田五郎アートトーク
・11/19 2014年度第4回コレクション展 後期@京都国立近代美術館
・12/5 チューリヒ美術館展@国立新美術館
・12/6 五木田智央 THE GREAT CIRCUS@DIC川村記念美術館
・12/6 赤瀬川原平の芸術原論展@千葉市美術館
・12/10 ウフィツィ美術館展@東京都美術館 企画展示室

【2013】
・1/31 エル・グレコ展@東京都美術館 企画展示室
・4/24 ミュシャ展@森アーツセンターギャラリー
・5/9 奇跡のクラーク・コレクション@三菱一号館美術館
・5/24 デザインあ展@21_21 DESIGN SIGHT
・5/29 ラファエロ国立西洋美術館
・7/31 〈遊ぶ〉シュルレアリスム損保ジャパン東郷青児美術館
・8/30 LoVE展@森美術館
・9/6 国宝 興福寺仏頭展@東京藝術大学大学美術館
・9/11 アメリカン・ポップ・アート展@国立新美術館

【2012】
・7/19 GUTAI 具体@国立新美術館
・8/4 ベルリン国立美術館展@国立西洋美術館
・8/14 バーン=ジョーンズ展@三菱一号館美術館

【2011】
・3/30 生誕100年岡本太郎展@東京国立近代美術館
・5/3 シュルレアリスム展@国立新美術館
・7/某日 空海密教美術展@東京国立博物館 平成館
・8/15 日影眩展@池田20世紀美術館
・8/22 フレンチ・ウィンドウ展@森美術館

【2010】
・4/17 ボストン美術館展@森アーツセンターギャラリー
・4/23 マネとモダン・パリ@三菱一号館美術館
・5/某日 レンピッカ展@Bunkamura ザ・ミュージアム
・7/19 オルセー美術館展2010@国立新美術館
・7/19 マン・レイ展@国立新美術館
・8/某日 カポディモンテ美術館展@国立西洋美術館
・8/某日 ブリューゲル版画の世界@Bunkamura ザ・ミュージアム
・11/6 特別展 東大寺大仏@東京国立博物館 平成館


女による、女のためのエロがアツい!―男を描く日本画家・木村了子に聞いた、これからのアートの可能性


 「名画」と聞いて、あなたはどんな絵を思い浮かべるだろうか。レオナルド・ダ・ヴィンチの《モナ・リザ》? ボッティチェリの《ヴィーナスの誕生》? それともマネの《オランピア》? 果たして、男の裸を描いた絵を想像した人がどれだけいるだろう。

 絵画史には、なぜか「描く男」「描かれる女」という前提がある。もちろん女の画家がいなかったわけではないが、上村松園も、マリー・ローランサンも、フリーダ・カーロも、主として女の姿を描いた※1。誰が決めたわけでもなく、男の画家は性の対象として女を描き、女の画家は自己投影として女を描いてきたのである。描き手が男であれ女であれ、描かれるのはいつも女。この世には絵に描いたようなイケメンがたくさんいるというのに、なんとおかしなことだろう。男の画家が女の裸を描くように、女の画家が男の裸を描いたっていいではないか。アートに興味を持ち始めてからというもの、ずっと不思議で仕方がなかった。

 しかし数年前、偶然ある女性画家のブログにたどり着いた。

 「以前は私も深く考えず、当たり前のように女性の姿を描いていましたが、ある時期、女性である私が女性自身の姿を描くことに意味を見つけられなくなりました。そこで異性である男性の姿を描いてみたところ、思いのほか楽しかったのです」※2

 作品ギャラリーには、イケメンがズラリ。男性器をあらわにしたイケメンの絵もあった。衝撃を受けた。「男の裸を描く女の画家、いるじゃん……」。これが、イケメンを描く日本画家・木村さんと、私との出会いだった。

 幼い頃から、リカちゃん人形よりウルトラマンのフィギュア、モー娘。よりKinKi Kidsが好きだった私である。男の体への執着心は衰えることなく、今となってはボーイズラブを愛好している。ボーイズラブとは、男同士の恋愛を軸とした物語群のことで、マンガや小説のみならず、ドラマCDやゲーム、アニメや実写映画などもこれに含まれる※3。特筆すべきは、作り手も受け手も基本的に女であるという点だ。男しか登場しないラブロマンス、愛し合うイケメンとイケメン、濃厚なセックスシーン、露骨な男性器の描写……。こうした独特の世界観を作り出す原動力の一つは、一方的に男の裸を見つめていたい、という女の欲望である。

 そしてついに、ボーイズラブの勢力は美術史的にも無視できないところまできた。昨年12月号の『美術手帖』で何が特集されていたか、ご存知だろうか。

 ―そう、「ボーイズラブ」である。

 こうした時代の流れから見えてくるのは、「描く女」「描かれる男」という新しい可能性だ。女が男を描くという点で、アートの領域にある木村さんの「イケメン画」と、カルチャーの領域にある「ボーイズラブ」は共通している。今回は、ボーイズラブを愛好している私が木村さんを取材することで、女が積極的に男の裸を愛でるとはどういうことなのか、これまでになかった視点で考察してみようと思う。

木村了子 《White Wave 白波図》 2005年 雲肌麻紙に岩絵の具、銀箔 33.0×55.8cm 個人蔵

 

◆この10年で変わったこと

 ボーイズラブが創作され、読まれるようになったのは、何もここ数年の話ではない。小説『恋人たちの森』(森茉莉/1961)やマンガ『ポーの一族』(萩尾望都/1974-76)が最初期のボーイズラブ作品として語られているように、その起源は半世紀前にまでさかのぼる。しかし木村さんは、こんなにたくさんの女たちが男の裸を描き始めたのは突然のことだった、と語る。

 「私の世代で、そういう意味で印象に残っているのはマンガ家の岡崎京子さん。岡崎さんの作品はボーイズラブではないけど、確か何かの作品のあとがきで『一時期チンコを描きたくて描きたくてしょうがなかった』というようなことを書かれていて。そこにチンコのらくがきも添えてあった記憶が……。うろ覚えですが(笑)。それを見た時に、女でもこんなことやっていいんだ、ってビックリしたのを未だに覚えてる。当時注目されてた女のマンガ家が、自著でそういうことを率直に書いてるっていうのも、特に印象的だったんだよね。その頃、成人女性向けに描かれた性描写を含むマンガ、レディースコミックは既にあったんだけど、今にして思えば描写が控えめだった。最近のマンガは、10代女子をターゲットにしたものでも、セックスシーンで擬音書きまくりだよね。ボーイズラブしかり。昔のレディースコミックは『あなたを愛しているわ!』『俺も愛しているよ……』で、周りにバラが散って、そのへんのシーンはなんとなくぼんやりと、穏やかに流れていく感じだったのに(笑)。そう考えると、ずいぶん時代は変わったなと思います」。

 それでも、男が見ることを想定したアダルトビデオやエロマンガに比べると、ボーイズラブは体液や陰毛が再現されず、表現が間接的だと言われることもしばしば。女による、女のためのエロなのだから、男向けのエロと同じであるはずがないだろう、という読みだ。しかし、実際にボーイズラブを読みあさっている私は、そうした考察に疑問を抱かずにはいられない。ボーイズラブは、世間の予想を遥かに超えてエロだからだ。「それどっから出てんの?」と思わずツッコみたくなるような体液が登場人物の股間まわりに飛び散っていることもあれば、現実離れしたサイズの男性器がクローズアップで描かれることもある。女による女のためのエロ描写は、ボーイズラブの盛り上がりとともに大きな発展を遂げたのだ。男向けエロマンガに勝るとも劣らないエロが今、女たちの手によって生み出され、女たちによって消費されている。そしてこの現象が、木村さんの作品に対する理解も変えることとなる。

 木村さんがイケメン画を描き始めたのは、2005年。「描く男」「描かれる女」の前提をくつがえすセンセーショナルな作品を前に、当時のお客さんたちは口を揃えて聞いた。「なぜあなたは男を描くの?」と。しかし10年経った今、状況はガラリと変わった。

 「もう『なんで男を描くんですか?』って言われなくなったね。私が最初にイケメン画を発表してから時間が経って、多少は認知されたこともあるとは思うけど、たぶんボーイズラブがこれだけ市民権を得たからだと思うよ。ここまでみんながワイワイ騒いでると、さすがに年配の方たちにも浸透してくるみたいで。今はもう、私の作品を見ても『ボーイズラブなんでしょ?』っていう感じ。最初は『ボーイズラブとは違うので』って言ってたんだけど、最近は『もういいや!』って(笑)。ワンジャンルとしてまとまるくらいの方が、勢いが出るんじゃないかな、って考えられるようになった」。

 つい最近まで、自身の作品をボーイズラブと捉えられることに抵抗を感じていたという木村さん。木村さんの作品は「男同士の恋愛を軸とした」ものではないのだから、当然である。では、一体何をきっかけに「私の作品もある意味ボーイズラブと同じなのかもしれない」という考えに至ったのだろうか。ここからは、木村さんのイケメン画とボーイズラブの共通点について掘り下げていく。

池 玲文 「媚の凶刃1」 リブレ出版、2014年、158頁

座裏屋蘭丸 「優しいディナー」(単行本『眠り男と恋男』所収) リブレ出版、2015年、80頁

 

◆見られることなく見る

 男向けエロマンガと、ボーイズラブという女向けのマンガ。この二つを比べると、セックスシーンにおける「構図」に明らかな違いがある。男向けエロマンガでは、読者が主人公の男に自身を投影しながら読み進めるため、組み敷いた女を上から見下ろしている「一人称の視点」を取ることが多い。一方ボーイズラブのセックスシーンは、愛し合う男二人を横から眺める「覗き見の視点」で描かれることが多いのだ。男向けエロマンガでは「男の視点で見た女」が重要視されるのに対し、ボーイズラブでは「二人の両方を見て楽しむこと」が重要視されるのである※4。『美術手帖』での特集タイトルが「 “関係性” の表現をほどく ボーイズラブ」だったのも、これと無関係ではない。

 そしてこの覗き見の視点は、木村さんのイケメン画にも共通している。《白波図》でも《お昼寝ターザン危機一髪!》でも、鑑賞者が横から男の裸を眺められる構図が取られているのだ。木村さんはその点に気付いていなかったようだが、この視点の一致は、必然でもある。いずれの絵も「男の裸を見たい」という女の衝動によって生み出されたものだからだ。

 自分を投影することなく、第三者の視点で男をじっと見つめていられる立ち位置……。長らくエロの対象として一方的に見られ、描かれてきた女にとって、こんなにも安心感を得られる場所は他にない。

木村了子 《お昼寝ターザン危機一髪!》 2010年 絹本着彩 42.6×54.5cm

雲田はるこ 『いとしの猫っ毛』4巻 リブレ出版、2015年、59頁


◆他人事だからなんでもアリ

 「覗き見の視点」の他にもう一つ、木村さんのイケメン画とボーイズラブには共通点がある。それは、対象との「距離感」だ。異性である男を描き、男の姿を覗き見することで、なぜ女は安心感を得られるのか。答えはこの距離感にある。

 見る対象、描く対象が自分と同じ女の形をしているというだけで、無意識のうちに起こる自己投影。私がボーイズラブを好んで読むのは、少女マンガに表象される受け身女子に、全く共感できなくなってしまったからだ。イケメンに惚れた弱みなのか、少女マンガに出てくる女子には、ほとんどの場合主体性がない。ドSイケメン男子に振り回されっぱなしだ。もっと主体的にイケメンをねっとり眺めていられる世界ってないわけ? そう思いながら広いマンガの海を漂流するうち、ようやく流れ着いた安住の地がボーイズラブという島だった。イケメンとイケメンのラブラブな日常を覗き見するという、この主体性。向こうは互いに愛し合うことに夢中で、こっちから女が見ていることには気付いていないようだ。しめしめ。

 自分が女である以上、男性器のついた彼らと自分自身を、完全なイコールで考えることは難しい。ここには「性差」という「距離感」が存在しているのだ。

 実はこの感覚、木村さんにも通じている。

 「私が男を描き続ける理由の一つに、自己投影しなくて済むっていう圧倒的な距離感があるんだよね。私はどちらかというと対象を客観的な視点で描きたいタイプだけど、女を描くとどうしても、描いたものと自分との距離が近くなってしまう。そして展示会場で自分がその作品の前にいると『これはあなたなの?』って聞かれる。自分をモデルにしているわけではないけど『違います』とも言い切れず、自分がさらされている感じも、そう受け取られることも生理的にイヤだったのね。でも男を描き始めると、作品の前にいても『これはあなたを描いてるの?』って、当たり前だけど言われなくなった。それが本当に楽で。人物画を描く前提として、描く対象を完全に他者として自分と切り離せる、圧倒的な距離感を作れるっていうのは、私にとって本当に好都合だった」。

 来年4月の個展では、人魚姫に着想を得た連作を発表するという木村さん。もちろん、主人公の性別を逆転させたイケメン人魚の物語だ。

 「新作では、少年人魚が魔法で人間になるのと引き換えに、醜い老魔女に襲われて童貞を奪われるシーンを春画的に描くつもりなんです。たとえ同じ春画でも、少女人魚が小汚いおっさん魔王に犯されている絵は描こうとも思わないし、描いてもかなり嫌悪感を覚えると思うんだけど、男の子だと平気で描けちゃう(笑)。なぜそれができるんだろうって考えると、やっぱり描く対象が異性であることによって生じる、圧倒的な距離感なんだよね。それに尽きる。男っていうだけで、不思議なほど超他人事になっちゃうんだなって。あくまでエロ・ファンタジーとして『描く』上での話ですけどね(笑)」。

 ボーイズラブも自身の作品も「自己投影せずにいられる」という点で同じだと言う木村さん。

 「ボーイズラブって、セックスシーンで喘いでるのも喘がせてるのも、どっちも男じゃない。それって女から見ると、ある意味非常に平等なのかもしれないよね。世のエロマンガでは喘ぐのは女ばっかだけど、責める男の姿も、かわいく喘ぐ男の姿も、どっちも見たい! と思う女のエロい妄想のはけ口としては、理に適っている。女が、堂々とエロい男たちを楽しむためにようやく手に入れた免罪符、それがボーイズラブなのかもね」。

木村了子 ≪目覚めろ、野生! 鰐虎図屏風≫ 2009年 鳥の子和紙に銀箔、岩絵の具 242×439cm  左隻「アジアの白い虎」 個人蔵

木村了子 ≪目覚めろ、野生! 鰐虎図屏風≫ 2009年 鳥の子和紙に銀箔、岩絵の具 242×439cm  右隻「鰐乗って行こう!」 作家蔵


ボーイズラブはアートになり得るか?

 「描く男」「描かれる女」という絵画史の前提に風穴を開けた画家、木村さん。近い将来ボーイズラブがアートのジャンルとして成立する可能性も、十分にあると考えている。

 「男を描き始めた頃は、もっと厚くて高い、目に見えないアートの壁を感じていた。世の男性像は、男が描いたヒューマニズム的な作品か、ゲイアートとして描かれたものがほとんどだったし、女が性の対象として男を描くっていうのは、アートの世界ではまだまだ異常だったのね。でも、ここにきて『もしかしてイケるんじゃない?』って感じになってきたのは、ボーイズラブの勢いが強いからだと思わざるを得ない。女だってエロい目で男を見てるんじゃ! という姿勢が女たちの間でどんどんマジョリティ化してきた。これをアートでやりたいっていう女の画家は既にちらほら出てきてるし、今後も増えるんじゃないかな」。

 しかし現在、著名な評論家やコレクターの多くは男だ。「描く男」「描かれる女」の前提をおびやかす男の裸は、受け入れられないこともある。

 「《目覚めろ、野生! 鰐虎図屏風》は、トラの方しか売れなかったのね。なんでワニの方は買わないのか聞いたら、股をパカーンって開いてるのがイヤだって言われたの。『なんか、男がバカにされてるみたい』って。でも、女が大股開きしてるアート絵画は大量にある。女の画家も描いているし、男の画家もいっぱい描いている。だから私はわざと、ちょっとこれ見よがしに、男が股を開いているポーズを明る~く取らせてみたんだけど(笑)。それを見てどう感じるかは、世代によって違ってくるでしょうね」。

 今や、女性週刊誌『an-an』が定期的に「オトコノカラダ」特集を組み、『週刊文春』には、ブリーフ姿で三輪車にまたがるイケメン俳優のグラビアが載る時代である。今後、そういった画を見慣れている世代がどこまで貪欲に男の裸を求め、享受していくのか。今ボーイズラブを読んでいる女たちの中から、男の体を描く巨匠画家が生まれる可能性だってある。

 「ボーイズラブも私の作品も、視点は同じなんだよね。ボーイズラブの読者も私自身も、描かれた対象に自分を投影することなく、距離を置いて横から男を見ている。その『男を見る』という『女の』視点が、今までのアートにはなかった」。

 マンガというカルチャーの領域で、メキメキと勢力を伸ばしている男の裸。ボーイズラブという女の欲望丸出しのムーブメントが、アートの領域に進出してくるのも時間の問題だ。10年、いや5年も経てば、男を描く女の画家は稀有な存在ではなくなっているかもしれない。

 ボーイズラブと、絵画史におけるイケメン画。存在する領域は異なっているけれども、これからともに進化していくジャンルであることに間違いはないだろう。「描く女」「描かれる男」という新しい可能性。女の裸が男に享受されるだけの時代は、とうに終わりを迎えている。


きむら・りょうこ
1971年、京都府生まれ。95年、東京藝術大学美術学部絵画科油絵専攻卒業、97年、同大学院美術研究科壁画専攻修士課程修了。「美男画」という新たなジャンルを確立すべく、日本画の技法でアジアのイケメンを描いている。北野武監督映画「龍三と七人の子分たち」(2015)では、劇中に登場する龍図襖絵を手掛けた。


※1 木村了子 「美男礼賛―男を描くということ」(未発表文書、2013年)参考。
※2 木村了子ブログ 「『男』を描くということ その1」 2010年1月29日 http://www.art-it.asia/u/ryokokimura/LUH8BAPripEWeCozNbIX/(最終検索日:2015年11月19日)
※3 溝口彰子『BL進化論 ボーイズラブが社会を動かす』 太田出版、2015年、18頁参考。
※4 金田淳子×福田里香×山本文子 「熱きボーイズラブの表現を語る! 萌える座談会」 『美術手帖』2014年12月号、美術出版社、2014年、76頁参考。


【補足】
・本記事は、編集・ライター養成講座の卒業制作として2015年11月末に執筆したものです。本文の著作権は株式会社宣伝会議に帰属します。


text : Saori Yanagi